Lie × Lie 〜 アルメリア城恋物語 〜
” 国王陛下がお呼びです ” そう言われ、今ミュアは私的な謁見に
使われる” 百合の間 ”の前にいる。
扉の向こうにあるのは、きっと待ちに待った返事だ。
ついに扉がひらかれ、足をすすめながら、ミュアは目を伏せた。
父王の顔には、満面の笑みがうかんでいるに違いない。
それを見てしまったら、淑女の嗜みなど放り出して、
はしゃいでしまいそうだったから……。
伏し目がちのまま程よいところで立ち止まり、腰を折って礼をしたミュアは、
王の言葉を待った。
「ミュアリス」
「はい」
しかし、そのあとに続く言葉がなかなか始まらない。
訝しく思い、とうとうミュアは顔をあげた。
父王は眉間に皺を刻み、沈痛な顔をしていた。
となりに座る王妃も、そのそばに立っている兄、ランドルも。
段下の窓際にひかえるノイエ卿は、肩を落としうなだれている。
「ミュアリス、アルメリオンのウォーレス陛下が……」
父王がやっと、口をひらく。
「亡くなった」
えっ……? 亡くなった……。
「すでに葬儀もすんだそうだ。そして二週間後には
新王が即位する。
そしてその一週間後には、新王とミュアリス、
お前との婚姻の式が執り行われる」
最初の言葉も理解できないうちに、ありえない言葉を聞かされて、
ミュアは呆然とした。
淑女らしく振舞うことなど、もう頭にはない。
「ちょ、ちょ、ちょっと待ってください!
ウォーレス陛下がお亡くなりになったことも信じられないのに、
そんなに早く別の人と結婚だなんて!!」
「確かにふつうではないが、亡くなったウォーレス陛下の
遺言だそうだ」
そんな……
声にならない呟きが漏れる。
ずっとウォーレスとの結婚を夢見てきたのに。
何年も、何年も、待ったのに。
王位を継ぐのは、第二王子のジョルジュ殿下だろう……
艶のある黒髪と醒めた美しい横顔が頭に浮かんだ。
「では、私は、ジョルジュ殿下の妻になるのですね」
そうミュアが言うと、父王は静かに首を振った。
「アルメリオンの王位を継ぐのはジョルジュ殿下ではない、
第三王子のグレイ殿下だ。
グレイ王子がお前の夫だ。」
さらに、さらに、ありえない言葉を聞かされて、ミュアは目の前が
真っ暗になり、足元の床ががらがらと崩れていくかのように感じた。