Lie × Lie 〜 アルメリア城恋物語 〜
窓辺の椅子に腰掛け、青く晴れわたる空を見上げていたグレイは、
すぐそばの木の枝から小鳥が二羽、澄んだ空にむかって羽ばたいたのを見て
目を細めた。
羽だ、あの羽があれば……。
幼い頃、窓から空に羽ばたく鳥を眺めて、いつもそう願っていたことを
思い出し、そして今また同じことを願った自分に自嘲の笑みをうかべる。
苦い笑みを張りつけたまま、目を閉じて項垂れたグレイの耳に、
部屋の扉があく音と、こつこつと自分に向かって歩いてくる靴音が聞こえた。
「グレイ殿下、もうすぐ式がはじまります。ご準備を」
顔をあげゆっくりと目をひらけば、目の前に、もうかれこれ十年は一緒に
いるトラビス=リードの顔があった。
中性的なやさしげな顔立ち。
今も口許は微笑んでいるが、グレイはトラビスが怒って、あるいは呆れている
のを感じとった。
まあ、確かにそうだろう、戴冠式用のベルベットの儀式服に着替えることも
せず、いつもどうりの格好をしているのだから。
しかも、全身黒ずくめだ。
王城にやってきて、今までのようなシャツにベストという軽装ではだめだ
と言われ、軍服型の国王の服を着るように言われたグレイが選んだのは、
まるで喪服のような黒一色の服。
ブーツも、トゥムという肩から垂らす短いマントも黒にして、
唯一、大きな赤いルビーを襟元につける。
無駄を削ぎ落としたその格好は、きりっとしたグレイの顔立ちによく
似合ったが、いやおうなくそのめずらしい紅い髪をも目立たせた。
その格好を見て、
「王室に嫌われた紅い髪を余計に目立たせて、お前はバカか」
とトラビスは言ったが、グレイは鼻先で笑っただけだ。
だから今、トラビスは怒りもし、呆れてもいるのだろう。
衆人環視の中でもそうするのかと。
望むところだ、とグレイは思う。
これから即位(た)つ王は、異国の卑しい踊り子の血を引くのだと、
この髪色を見て肝に銘じるがいい。
挑むような笑みをうかべ、椅子から動こうとしないグレイを見て、
トラビスはため息をおとすと言った。
「なんでもいいから時間には遅れずに来てくれよ。逃げだすなんて
もってのほかだ」
そう言って、さっさと部屋から出ていく。
逃げだすものか ー ー
これは自由を手にするための、第一歩だから。
神話の中の古代神が、” それ ”を手に入れるために、灼熱の火の森をぬけ、
凍るような深海にもぐり、槍のような山の頂にのぼったように、
自分も焼かれ、凍り、幾多の傷をこの身に刻まねばならない ー ー。