Lie × Lie 〜 アルメリア城恋物語 〜
期待を裏切らないよい声だとグレイが内心、にやっとしたとたん、
その場を支配していた空気が緩み、グレイは苦笑いをこぼしたが、
まあいい、と思いなおした。
距離が近づいたことで、レースのむこうの顔がもう少しよくわかる。
視線は強くグレイに注がれ、その瞳の色は……。
薄いグリーン?
プラチナブロンドの髪に、アイスグリーンの瞳、相手をしっかりと見据える
強い視線。
グレイの頭のなかに、ある少女の名がうかんだが、彼は即座にそれを否定した
「それを、信じろと?」
「信じていただくより他は、ありません」
「では、せめて名ぐらい明かしたらどうだ」
グレイの言葉に、女は黙り下を向いたが、すぐ顔をあげる。
「カトリーヌといいます」
「カトリーヌ、それで、家名は?」
「それは……」
女が言いよどんだ時、上の方からバタバタと人が走り回る音と、
新王の名を呼ばわる声が聞こえてきた。
ちっ、時間切れか。
内心舌打ちし、グレイは目の前の女を見る。
身体を強張らせ、衛兵の声のする方を見上げている女……。
グレイは大股で女に近づくと、腰に腕をまわして身体をひきよせ、
顔を隠しているレースを剥ぎ取った。
「きゃっ」
髪が揺れ、女が驚いた顔でグレイを見上げる。
卵型の美しい顔、大きく見開かれたアイス・グリーンの瞳、
そこに記憶の底にある少女の面影を認めて、グレイの顔に苦笑がうかんだ。
「ミュ……」
後ろにいた黒髪の女が、慌てて駆け寄ろうとするのを手で制して、
グレイは驚き固まったままの女の耳許に口を寄せると囁いた。
「しっかり顔は憶えた、カトリーヌ」
「な……っ」
女の身体から手を離し、グレイは岩壁に手をかけるとすぐに壁を登り始めた。
グレイの行動に、今度は女が、ぽかんと口をあけている。
それをちらりと見て、グレイはくっ、と口角をあげた。
「衛兵は俺がとめる、壁伝いにいけば外へ出る木戸口がある、
さっさと行け」
上まであがり振りかえると、二人の姿はもうなかった。
グレイの口から、小さな呟きがもれる。
「ミュアリス、ターラントの王女……」