Lie × Lie 〜 アルメリア城恋物語 〜

 乱れた髪をなおし、落ち着いたところでノックの音が響き、
 にこやかに笑いながらグランデール公爵夫人が部屋に入ってきた。


   
    「お加減はいかがですか、ミュアリス様」
    「ご心配をおかけしましたわ。午前いっぱい休んだおかげで、
     もうなんともありません」  
    「それでしたら、婚姻の式でのべる誓いの言葉をもう一度
     おさらいしましょう。 
     戴冠式も無事に終わったようですし、式まであと一週間ですもの」 
    「はい」



 その戴冠式を、具合が悪いからと部屋にこもったふりをして、
 実は屋敷を抜けだし見てきたことは、公爵夫人には絶対、内緒だ。


 一週間前、婚約者だったウォーレス陛下の死と、新国王になる第三王子グレイ
 との結婚を知らされて、アルメリオンにやってきたミュアに、
 心細やかに接してくれる公爵夫人を騙すことは、気がとがめたが、
 ミュアはどうしても自分の目で戴冠式が見たかった。

 婚約者の死も、新王が即位することも、その妻となることも、
 すべてがまだ信じられないこと。

 だから、この目で確かめたい。


 遠くからしか新国王の姿は見れなかったけど、それがグレイ王子で
 ウォーレス陛下はもうどこにもいないのだと、ミュアは思い知らされた。

 そしてもう一つ、あの場にいて感じたのは、貴族たちの新国王に対する
 ひどくマイナスな感情。
 ウォーレス陛下を亡くした悲しみが、そのように形を変えているのかと
 最初は思ったが、即位を嘆く貴族たちからは “ 穢らわしい ” という言葉が
 漏れ聴こえた。
 
 “ 穢らわしい ” とはどういうことだろう……。


   
    「あの、グランデール夫人、グレイ陛下は皆に受け入れられて
     いないのでしょうか」


 
 思わずそう尋ねたミュアに、夫人は驚いた顔をする。


   
    「まあ、なぜそう思われますの?」
    「いえ、そんなはずありませんよね。ただ何もかもが急で、
     いろいろと不安になっているのかもしれません」



 慌てて言いつくろったミュアに夫人は真顔になると、少し悲しげに
 目を伏せた。


   
    「グレイ陛下は王子の頃、公の場にでられることが少なかったので、
     皆に理解されているかというと、それは……わかりません。
     私もよく知っているのは、陛下の子ども時代のことですから。
     でも、陛下は賢くて、なんにでも秀(ひい)でた御子でしたよ、
     そして、それをいつも隠していらした」
    「隠して……?」
    「ええ、なんでも隠してしまわれる。そんなに隠す必要はないのに、
     と思ったものです」 
    「どうしてでしょうか?」
    「なぜでしょうね」




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