Lie × Lie 〜 アルメリア城恋物語 〜
ミュアの脳裏に七年前のグレイの姿がうかんだ。
王子らしからぬ口のきき方をする、生意気そうな紅い髪の少年 ー ー。
亡くなったウォーレス陛下と兄弟なのに、彼らは少しも似ていない
たぶん人々が望むのは、ウォーレスのような王子であり、国王だろう。
ミュアだって望んだのはウォーレスだった。
ずっと夢みてきた。
それなのに婚約者の葬儀にもよばれず、死を悼む時間もあたえられず、
その弟に嫁げとは!
いくらなんでも酷すぎる、こんな申し出は受けいれられない!
取り乱すミュアを見かねて、父王はアルメリオンにすぐ使者を送ったが、
返ってきた返事は
” これは、ウォーレス陛下が今際の際に言い残されたこと、
亡き陛下のためにも、遺言には従っていただきたい ”
というものだった。
ウォーレスのためと言われ、ミュアは言葉を飲みこんだ。
「もともとが “ 国と国 “ を結ぶための婚姻だ、
個人と個人として考えてはいけない。
お前は王女なのだから」
苦しげに、だがきっぱりと言われた父王の言葉に、ミュアは頭をたれた。
「いろいろなことを、いかにも尤もらしく、いろんな人が
言うでしょう。
自分の言うことが何より正しいと、誰もがそう言うでしょう。
でも隠す理由は、陛下からじかに聞かれたほうがいいでしょうね。
その理由とともにグレイ陛下のお気持ちも受けとめることができる
妃になられることを、願っています」
短い間であるが、夫人が曇りなく物事が見える人だとミュアは感じている。
夫人からは、グレイに対する慈しみの感情がみてとれ、少なくとも一人は、
彼を好意的に見る信頼に足る人がいると、ミュアはふっと息をはいた。