Lie × Lie 〜 アルメリア城恋物語 〜
(3) 婚姻式と初めての夜
恨めしいぐらい、毎日正確に朝日は昇り、沈み、そしてまた昇る。
一週間はまたたく間に過ぎ、嘘としか思えない ” その日 ” は
確実にやってきた。
今、ミュアは、襟元からドレスのすそ先まで繊細なリバーレースで
飾られた純白のドレスに身をつつみ、真珠と白薔薇の髪飾りから
すけるベールを背中に垂らして、真っすぐに敷かれた絨毯の上を
歩いている。
ー ー 純白のドレス 、ウォーレスのために着るはずだった衣装 ー ー
一瞬、金モールが映える白い軍服を着た黒髪の青年が、
祭壇の前にいる幻がうかんだが、ミュアを待って立っているのは、
まったく別の人。
まるで喪服のような黒ずくめの衣装に、鮮やかな紅い髪、こちらに
背を向けていて顔は見えないが、一週間前にここで会った人と背格好は同じ。
ミュアはそっと唇を噛んだ。
……どうしよう
ふりかえった彼は、ミュアを見てきっと驚くに違いない。
戴冠式の日に会った不審な女が、今度は、花嫁衣装を着て歩いてくる
のだから。
だが彼は、なかなか振り返らなかった。
悲しみ、諦め、そして不安、様々な感情が湧きあがり、遠いと思っていた
距離がちぢまるにつれ、ミュアの胸の高鳴りと緊張は大きくなっていく。
アルメリオンの王都の大聖堂の祭壇を正面に、絨毯の左右に並ぶ貴族たち
からは、ミュアの美しさを賛美する声が漏れきこえているが、
ミュアは少しも気づかない。
普通の花嫁が感じる胸の高鳴りとは別物のドキドキを感じながら、
ミュアはグレイのとなりに並び立つ。
だが、彼はこちらを向かない。
そっと横目で伺うと、グレイはなんの感情もない顔で祭壇を見ていた。
この無関心な態度の意味は……?
いや、それならそれでいい。
このまま何事もなく、さっさと式が終わった方がいいのだから。
そう自分に言い聞かせ騒ぐ胸をおさえれば、大祭司が、御子(みこ)
の格好の水盤を持った少年とともに姿をあらわし、ナゥナの枝で辺りを
祓(はら)いながら式の始まりをおごそかに告げた。
ナゥナの枝の祓いにあわせて、皆がこうべを垂れて目を閉じる。
大祭司の祈りがはじまり、ミュアもまた、目を閉じ、頭をさげた。