Lie × Lie 〜 アルメリア城恋物語 〜

 婚姻の式の後は大聖堂から王城へとうつり、城の大広間で
 祝いの夜会が開かれた。


 
 ミュアは、豪奢なシャンデリアが輝く広間の中央で、他国の大使や
 アルメリオンの高位の貴族たちの祝辞を受けている。

 
 挨拶ひとつひとつに、頷き、微笑み……、だが、その優雅な物腰とは裏腹に、
 心の中で吹き荒れる嵐に、ミュアは憤然と立ち向かっていた。

 居たたまれなさや恥かしさ、逃げ出したいという欲求、怒りに、
 恨み 、etc、et cetera ー ー。

 ごーごーと音をたてて吹き荒れ、きりきりと舞いあがる感情を、
 上品な笑顔と洗練された態度でおおい隠し、完璧なレディとして振るまうのは、
 さすがのミュアでも骨が折れた。


 
 ひととおりの挨拶が終わり、段上の玉座にグレイとともに座ったときは、
 大きなため息がもれそうになり、慌てて息を吸ったが、
 広間に広がった人たちは、音楽に合わせ踊り、会話を楽しみ、
 もう王と王妃に注意をむけるものはいない。


 途端にどっと疲れがおしよせて、ミュアは、吸った息をひそかにふぅーと
 吐きだす。

 
 その時、玉座のうしろでひそめた声がした。


   
    「王妃様、最後の式の準備がありますので、静かに席をお立ち下さい」


 びっくりして、しゃっくりが起きそうだった!

 
 声をかけてきたのは侍従長で、彼はミュアに退席をうながし、
 ついてきてくださいと言う。

 何事もなかったという顔で(しゃっくりは喉に引っかかって出てこなかった)
 わかりました、と答え、立ちあがり、ちらりと隣を見ると、
 グレイは相変わらずの無表情で、踊る人たちに目を向けている。

 ミュアが立ちあがっても、注意も向けない。
 ……そりゃ、二回も引っ叩かれれば、無視したいでしょうね。
 
 
 一言ことわるべきかと思ったが、グレイの様子に、ミュアはそっと
 息を吐くと静かにその場を後にした。




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