Lie × Lie 〜 アルメリア城恋物語 〜

 もうずいぶんと夜も更けたのに、まだなにか儀式があるのかと
 思いながら、侍従長につれられてきた部屋には、
 二人の若い侍女と年取ったいかめしい顔の侍女がいた。

 丁寧に礼をしてミュアをむかえた三人のうち、年配の侍女が
 進みでて、口をひらく。


   
    「デリアニアと申します。デリアとお呼びください。
     これから、最後のお式の準備をいたします、それでは、
     まず湯殿へ」
    「……」



 頭のてっぺんから足先まで綺麗に洗われ、入念に手入れされ、
 薄いシルクの夜着にガウンを羽織らされたミュアは、
 もう” 最後の式 ” がなんなのか、理解していた。

 結婚したのだから、当たりまえのこと。

 王妃なのだから、避けては通れないこと。


   
    「陛下が部屋に入ってこられたら、淑女の礼をとり、
     古代語の聖女の祈りを唱え、
     ” 陛下をお迎えできることを、心よりうれしく思います ”
     と、仰ってください。
     それから香油を手にとり……」



 さっきから、侍女長のデリアが最後の式の手順を説明しているが、
 その声がひどく遠いところから聞こえるような気がする。


 これから起こることを受け入れたくないと思う心が、
 思考を鈍らしているのか、ぼんやりとする頭の中に、無表情にミュアを
 見るグレイの姿がうかんで、ミュアは唇を噛んだ。
 

 どうして、こうなっちゃんたんだろう……
 
 これから迎える相手がウォーリス陛下だったら、私は、今、
 世界一幸せでいられただろうに……



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