Lie × Lie 〜 アルメリア城恋物語 〜
「よろしいですか、王妃様」
強く確認するデリアの言葉に、ミュアは、はっと意識をもどすと、
目の前の、生まれてこのかた一度も笑ったことがないのでは?
と思える侍女長の顔を見た。
聞いていませんでした、とは言えそうにない。
「はい」
弱々しく頷いたミュアを、デリアは細い目でしばし見つめたが、
なにも言わず立ちあがりミュアを促す。
「それでは、王妃様、こちらへどうぞ」
今までいた部屋からつづく ”王と王妃の寝室” には、アラベスクパターンの
透かし彫りのある、見事な天蓋をもつ大きなベッドと、
椅子と小テーブルのセット、そして寝椅子二つ分もありそうな
広さの長椅子があった。
飾り台に置かれた花の香りが、強く部屋の中にただよっている。
「それでは、つつがなくお務めを果たされますよう」
そう言って、デリアが出ていってしまい、パタンと部屋の戸が閉まると
ミュアは、息苦しさをおぼえた。
花の香りがきついせいだわ ー ー。
実際はそれほどでもなかったが、ミュアはそう思いこんだ。
あの花は下げてもらおう、今ならまだ誰か隣の部屋にいるかもしれない。
そう思うと気がせく。
ここにいたくないという気持ちが無意識にミュアをせかしていたが、
そんなことに気づく余裕などなく、今すぐ扉を開けなければ、
一生扉が開かなくなる気さえした。
早く! と、駆けだす勢いで大きく一歩を踏みだしたところで、
キィと扉が開き、ミュアは、ひくりと身体をふるわせる。
入ってきたのは、グレイだった。