Lie × Lie 〜 アルメリア城恋物語 〜

 どくんと大きく鼓動が跳ねた。
 でも、いつもの黒ずくめの衣装を脱いで白い夜着一枚のせいか、
 細身のナイフのような危うさが消えて、彼は幼く見えた。

 実際、彼はまだ若い、国王とはいえ、ミュアより一つ年上なだけ。

 今までとは違う姿に、ミュアの肩の力がぬける。
 
 途端にやらねばならないことを思い出し、ミュアはかさねた両手を
 胸の上におき、腰をかがめて礼をすると、デリアに教えられた
 通りの言葉をのべた。
 
  えっと、……それから……。

 本当は祈りを捧げなければならなかったが、気が動転していて、
 ミュアは気づかず、香油の瓶に手をのばす。

 
 その時、


    「待て」



 そう声がし、いつの間にそばにきたのかグレイが間近にいて、
 ミュアの手首を握った。

 ミュアを見下ろす瞳には、昼間のような冷たさはない。
 
 それどころか、薄い夜着一枚と近い距離に、グレイのしっかりとした
 男らしい身体がよくわかって、ミュアは狼狽えた。


   
    「香油は必要ない」



 そうグレイが静かな声で言う。
 
  え……?

 手順を素っとばすということだろうか、デリアの話を
 途中までしか聞いていなかったミュアにとって、それはありがたい
 ことだけど……。

  じゃあ、この先どうしたらいいの?

 
 突然、婚姻の式でされたグレイの強引なキスを思いだして、
 ミュアはさらに、さらに、狼狽える。




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