Lie × Lie 〜 アルメリア城恋物語 〜

 毎日、午前中のきまった時間に、デリアがお茶を準備し、
 ミュアはひとりで、それを飲む。


   「いかがですか」
   「ありがとう、美味しいわ」
   「体調など、変わったことはございませんか」
   「ええ」


 そして決まったやり取りをかわす。
 
 まるで、薬を飲まされて、問診されているようだわ。
 
 ……実際そうなのだろうか? 
  飲んでいるのは、ただのお茶ではないのかしら。

 だが、王室には優秀な御典医がついているし、ミュアはもともと丈夫
 なほうだ。
 神経質になる必要などないが、それでも体調管理のためだというのなら、
 一言そう言ってほしい。
 でも、問うたところで、デリアが納得のいく説明をしてくれるとは
 思えなかった。


 
 地味な色合いの衣装は、彼女の枯れた立ち木のような身体を
 よけいに際立たせているし、口許はいつも怒ったように
 引きむすばれている。

 細い目にはなんの感情もうかばず、今のようにわずかに目をふせて
 いても、ミュアの様子を油断なく観察しているように思える。


 だんだん、胸に石でも詰めこまれたような気持ちが
 どうしようもなくなってきて、ミュアはお茶を飲みほすと、
 顎をつんとあげ、わざと固い声をだした。


   
    「気分転換に、庭に出たいのだけど」



 言葉をきり、デリアの反応をうかがう。

 もし彼女が反対しても、今度は押しきるつもりでいた。
 それを感じとったのか、デリアはしばし黙ったが、
 侍女をひとりつけましょう と言った。


   
    「そう、ありがとう」



 まだ顎をあげたまま鷹揚にそう言って、ミュアは心の中で
 少しだけ、ぺろっと舌をだした。



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