Lie × Lie 〜 アルメリア城恋物語 〜
軽かった足どりが重くなり、軽く唇をかみしめて、ミュアは重い溜息を
吐きだした。
なんとなくデリアを出し抜いたようでいい気分になっていたのに、
大きな鉛の錘がぶら下がったみたいに、気持ちがずぅぅんと沈んでいく。
それでも惰性で足を動かして南棟に足をふみいれたミュアは、
企みを含むようにひそめられた声に、はっと、足をとめた。
「この申立書を明日の議会の書類の中にまぎれこませるだけで
いいんだ」
「で、でも」
「それだけで金が入るんだぞ」
人目をはばかるように、棟の入り口の柱の陰に、灰色のコートに
白いリボンタイというお仕着せの官吏服をきた男が二人。
巻かれた紙を手に持った年かさの男が、顔にそばかすをちらした
まだ幼さの残る若い男につめよっている。
「認印がない申立書では……」
若い男が弱々しくそう言うと、もうひとりがニヤリと笑った。
「偽の印が押してあるから、問題ない。
このボドナ鉱山の申立書が議会で読みあげられればいい、
あとはうまくやるからなんの心配もない、って言われてる」
ボドナ鉱山 ー ー その言葉がミュアの注意をひいた。
銅や燧石がとれるこの鉱山は、国境をこえアルメリオンとターラント
両国にまたがっておりターラントにおいても重要な鉱山のひとつだが、
それが、不正な方法で議会にかけられようとしている。
「いいか、よーく考えろ、金ほしいだろ?」
「う、うん……」
若い男は押しきられたかのように、小さく頷き、紙をうけとった。
正当な方法ではだせない申立書 ー ー ターラントにとっても
よくないモノかもしれない ー ー。