Lie × Lie 〜 アルメリア城恋物語 〜
ミュアはきゅっと唇を引きむすび、まるでたった今ここに着いた
というように、わざと足音をたてて歩きだした。
誰もこないと思っていた二人の男は、ぎょっとした顔で
ミュアの方をむき、慌てて頭をさげる。
「ああ、そんなにかしこまらないでちょうだい、少し時間が
できたから、執務について学ぼう と思ってきただけなの。
陛下はまだそんな必要はないとおっしゃるけど、私ははやく、
王妃として皆にみとめられたいと思っているの」
無邪気で好奇心旺盛な王妃にみえるよう、明るくそう言いながら
ミュアはちらりと、若い男が手にしているものに視線をはしらせた。
「あなたが持っているのは、なにかの書類かしら?」
「こ、これは」
「議会に提出するものです」
若い男の手が、紙を隠そうと動くのを止めるように年かさの男が答える。
「まぁ、そう…… 言語学の教授に言われました、
公文書を読みこなすのは難しいと。
修飾文法もならってはいるのですけど」
考えこむような仕草をしながら、ミュアはゆっくりと言葉を続ける。
「実物を見たいと思っていましたの。それを、
見せてもらうのは駄目かしら?」
「あ、いや、そ……の……」
そばかす顏の官吏は額に汗をうかべ、これ以上はないというほど
落ち着きをなくし、年かさの方は困惑した顔で、ミュアを見る。
ミュアは可愛らしく首をかしげると、取り乱している男に向かって、
天使の笑みをうかべた。
「お願いを聞いてもらえたら、とても嬉しいのですけれど」
若い官吏のそばかすだらけの顔がうっすらと赤くなり、紙を
握りしめている手がおずおずと前にでる。
年かさの男も、それを止めようとはしなかった。
「ど、どうぞ」
「ありがとう」