Lie × Lie 〜 アルメリア城恋物語 〜
侍女が待っているだろう中庭に急ぎながら、ミュアは、
今読んだ文書について考えていた。
”とても難しくて、読めない” と言って、紙を返すと、
年かさの男はあからさまに、当たり前だろうという顔をした。
ターラントの王女だったミュアには読めまいと思ったから、
申立書がミュアの手に渡るのを止めなかったのだろう。
だが、本当は、違う。
「私を、見くびらないでもらいたいわ」
目の前にあの男がいるかのように、冷ややかな視線を投げかけ、
やっぱり今からでもギャフンと言わせようかと考えて、いやいや、それよりも
これからどうするかを考える方が大切だと思いなおす。
グレイにこういう不正がされていると告げ、防ぐことはできるだろうが、
どうしてこういったことが行われようとしたのか、どう処理されるのかまでは
教えてもらえないだろう。
「王妃として、今しなければならないことではないだろう」
とか、なんとか、もっともらしいことを、もっともらしく言う
グレイの姿が想像できた。
戦いの神 マルゥーズの左目の赤輝星、それに喩えられていたグレイ。
でも、今は違う。
あの日、あの芝生広場で、紅い髪を燃え立たせながら、ミュアを見据えた
ゴールドの瞳が、今は、ない。
いや、一度だけ……、はじめてのベッドの上で……。
思い出せば、頬に熱があつまる。
「嫌だわ、まるで襲ってほしいと思ってるみたいじゃない」
ミュアは、頭をぷるぷるふって、頭のなかのグレイの姿を追い払った。