Lie × Lie 〜 アルメリア城恋物語 〜

 この場の誰よりも華やかな刺繍のサーコートを身につけ、誰よりも
 大きいエメラルドのタイピンをつけた若い貴族が、ミュアを見て
 微笑んでいる。

 議長はそれが、フォッテン侯爵のものだとわかると、みるからに
 ほっとした顔をした。


   
    「フォッテン侯爵がそう言われるのなら……」



 と、もごもご口の中だけでしゃべり、ちらりとミュアを見て頷き、
 グレイに背をむけると会議の続行を告げる。

 あわてて官吏が椅子を二脚もってきて、ミュアがすましてグスマン教授と
 ともに腰をおろすと、二、三人の貴族が渋い顔をしたが、それも無視して、
 議長は次の議題を読みあげた。


   
   
   「ボドナ鉱山の所有についての申し立て。
    現在、鉱山は皇室の直轄地となっているが、じゅうぶんな事業展開が
    されているとは言い難い。
    事業拡大を考え、直轄地からはずしてはどうか。
    
    ふむ、この件については、ブリウー伯爵のサインがありますが」
   「はい」


 丸顔のブリウー伯爵とおぼしき貴族が立ちあがり、過去の採掘量などの
 資料をもとに、経営を民間または、評議員貴族の運営にまかせる有益性を
 滔々(とうとう)とのべれば、すぐに何人かが、賛成の意をあらわす。


 ミュアはその様子をイライラしながら見ていた。

 なぜ誰も、鉱山がターラント国との両所有だということに目を向けないのだろう。
 アルメリオン国の利益ばかりが議論されている。


   
    「なるほど、それでは、陛下のご意見は……」



 議長がそう言い、身体を半分ひねってグレイ見る。

 ミュアは縋るような気持ちで、グレイを見た。
 どうか、” だめだ “と言って。


   
    「そうか、そうだな。その件は前向きに考え、まず現在の様子を調べ、
     文書にしてださせよう」
    「おかしいですわ」



 ミュアは思わず、立ち上がっていた。


   
    「ボドナは、アルメリオンとターラント両国にまたがっているので、
     過度な採掘をさけるため直轄地になっているのです。
     ですから、このことはターラントもふくめて議論……」




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