Lie × Lie 〜 アルメリア城恋物語 〜
はぁ?......
なんの脈略もない言葉に、ミュアが目を瞬かせると、ふっ、とグレイは
口端に自嘲の笑みをきざむ。
「あまりにも色気のない誘い方だったから、好きな奴との
こういう経験もなかったのかと聞いたんだが、愚問だったな。
あんたがずっと好きだったのは、兄のウォーレスだった」
息を吐くようにグレイがそう言い、襟をつかむ手をはずそうと
ミュアの手を握る。
自嘲の笑みは、ますます深くなる。
だから……
そんなグレイの顔から目をそらさず、ミュアは拒むようにさらに強く
襟を握りしめ言った。
「でも、今は、あなたの妻よ」
すっ、と苦しげで淋しげな笑みが消え、グレイはじっとミュアを見つめた。
グレイの顔から冷たい笑みが消えたことに、なぜかほっとしながも、
ミュアは内心焦りはじめた。また、陛下を怒らせるようなことを
してしまったかも。
それでまた、あの咬みつくようなキスをされるの?
グレイの手が動き、ミュアはぴくっと身体をふるわせる。
乱暴に顎をとらえるかと思ったのに、グレイの手はもっと上までのび
ミュアの髪に触れる。
そして、やさしく髪をなで下ろしながら、グレイはミュアの身体を
そっと抱きしめた。
ミュアはびっくりした。
あまりにびっくりして身体を固まらせると、包みこむ腕の力は、
ますますやさしくなる。
あたたかな体温が交じりあい、自分の心臓の音とは別の
もうひとつの命の鼓動を間近で感じる。
グレイの指の動き、ひとつひとつをミュアは意識した。
指は、プラチナブロンドの髪に絡まり、そして解(ほど)き、
なめらかに動く。
もう一度、グレイの手がやさしく髪をすべりおりていき、
ミュアは身体の力をぬくとゆっくりと目をとじた。
なぜかわからない甘く感じるこの時間に、身をゆだねてみたかった。
だが、突然にそれは、終わった。
解けあった体温にすきま風が入り込み、目を開けた先に、
背をむけようとしているグレイの姿がある。
「俺の妻だというなら、お前はもうアルメリオンの王妃だ。
軽々しくターラントのことを口にするな」
今の愛撫が嘘のように、グレイの声が冷たく響く。
いつものように長椅子に横になり背を向けたグレイの姿に、
ミュアはうつむき、ぎゅっと唇をかんだ。