Lie × Lie 〜 アルメリア城恋物語 〜

 言った瞬間、鋭い痛みがミュアの胸に走った。
 シルヴィはもう完璧なオーガではなくなってしまった。
 角が無いのだから……。

 そのことで、これから先どんな影響がでてくるだろう。
 今と変わりなく、シルヴィは生きていくことができるだろうか?
 悲しみと不安が湧きあがり、涙ぐんで、ミュアはぎゅっと唇を咬む。
 だがそんなミュアを見ても、少年は顔色ひとつ変えず、相変わらず
 射るような目でミュアを見ているだけだ。


   
    「謝ろうとは思わないの?」
    「謝る?  俺が?」



 少年が “ 俺 “ と言ったとき、ミュアの中に侮蔑の感情が生まれた。
 
  俺、ですって?!

 貴族の男の子は見ず知らずの人の前では、” 俺 “ とは言わない。
  
  この子は貴族じゃないのかもしれないわ……。
  最近では、裕福な商人も貴族を真似て、オーガをもつらしいもの。
  だったら、きちんと教えてあげるべきね!!

 ミュアは一度、深く息を吸い込むと、大きく足を踏み出し少年の前に
 立った。


   
   「ここは貴族の子弟が集まる場所よ、だから礼儀作法を身につけた者
    だけが、入れる場所なの。
    あなたがどうやってここに入ったか知らないけど、礼儀もここのルール
    も分かっていないのではなくて?
    フライングキャッチをする場所は、衝突をさけるために隣同士には
    ならないはず。
    だから、あなたがルールを無視してここに入ってきたことが、
    事故の原因……」



 
 全部言い終わらないうちに、紅い髪の少年がゆっくりと立ち上がり、
 ミュアの顔を間近から覗きこんだので、ミュアは慌てて口をつぐんだ。

 光をあつめて光るゴールドの瞳が、目の前にある。
 ミュアの心臓が、トクンと変な風に跳ねた。
 だが……

 くっと笑った少年が放った言葉に、ミュアの顔は怒りで真っ赤になった。


   「淑女はオーガの競技会を見物することはあっても、自らは出場しない
    ものだと思ってたけど。
    あぁ、そうか、淑女でなければいいのか。
    だから相手が悪いと決めつけて、高飛車にモノが言えるわけだ」






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