Lie × Lie 〜 アルメリア城恋物語 〜
会場にはすでに、招待された貴族たちがあつまっていた。
まだ席にはつかず、会場のあちこちで立ち話をしていた貴族たちは、
侍従に促され歩いてくる王妃の姿を目にすると、だれもがちょっと口を
つぐんだ。
感嘆の言葉を口にするものもいる。
「ほう……」
「これは、美しい」
皆の視線をあつめながら、ミュアは一番大きい天幕の下にはいると
長テーブルの中央に立ってるグレイのもとへ足をすすめた。
彼はいつものように黒づくめの格好だ。
彼はまだ、ミュアに気づいていない。
彼まであと、八歩ほど、あと七歩、あと六歩…… 。
気づいたグレイがこちらを向く。
彼は、じっとミュアを見ている。
五歩、四歩…… 二歩ほどの距離をおいて足をとめる。
奇妙に胸が高鳴った。
ミュアが腰をかがめると、柔らかな光を孕(はら)む細い髪がさらりと顔の
よこに流れる。
「陛下、すてきな贈り物をありがとうございます」
そう言って顔をあげたミュアは、自分を見つめるグレイの瞳のなかに、
驚きと喜びを見てとった。
彼はなにも言わないが、少しだけ口許がほころんでいる。
“ 驚き ” は、” 予想以上に ” で、” 喜び ” は、
” 予想通り ” だからかしら……。
グレイの表情に、ミュアリス自身も満足した。
ここ何日かの気まずさは、嵐の名残りの強い風が、吹きとばして
しまったかのようだった。