Lie × Lie 〜 アルメリア城恋物語 〜
(6)-2 幸せの内側
黄褐色の毛が短くなって目立ついくつかの傷あとを、じっくりと診た
初老の獣医は化膿止めのくすりをたっぷりと塗りつけると、
やさしい手つきでオーガの背中を撫でた。
「今日はいつもより長く歩いてもだいじょうぶですぞ」
一緒になってオーガの傷あとを覗きこんでいたミュアは、
ぱっと顔をかがやかせると
「よかったわね、トパズ。さあ、ゆっくりでいいから
外へでましょう」
と、黄褐色のオーガにむかって声をかけた。
オーガは身をおこすと、少しばかりうしろ足をひきずりながら、
ミュアと獣医のあとについて小屋の外にでる。
「四日ぐらいあとにまた来ます。お腹の子の様子も
気になりますからな」
ぼさぼさの白髪頭の獣医はそう言うと、金網の戸をあけて、
そこに立っている衛兵に会釈し、道を下っていった。
ここは王城の東門からでたすぐの道を裏手の森のほうへ
二十分も歩いたところにあるミュアの大切な場所だ。
脱走騒ぎをおこしたオーガはアルメリオンの野生動物を保護する施設に
おくられるはずだったが、ミュアが密かに引きとってここで育てている。
すべてをのみ込んで平然と振る舞おうとしたミュアだけど、
なにか支えがないと心は砂で作った城のように脆く
崩れていくようだった。