ぶさいくな旦那様
「あなたはそれでもいいの?」
夕食を終えて2人で中庭を散歩しながら話をする。
「ん~?」
間抜けすぎる返事をしたこの男が、のちに一国の王になるだなんて信じられない。
あぁ、私はこの男の妻にならなければいけないんだっけ。
「僕はいいよ、いつかそうなるかもって思ってたし」
「え、思ってたの?」
「なんとなくだけどね
まぁ、まさかそんないきなりだとは思わなかったけど。」
私は、そんなこと考えもしなかった。
いつか、お父様とお母様が連れてきた美形な王子様と結婚して、いつまでも平和に暮らして行けると思ってた。
「そうなんだ」
なんだか、私だけ現実を見れてなかったみたい。
「マリさんは、いいの?」
テオは私に聞き返す。
聞き返された瞬間、一瞬だけ息が詰まった。
「わかんない...」
人には聞いたくせに、自分ではなんにも考えてなかった。
何も分かっていなかった。
言葉では分かっていたけど、本当にそうなることなんて、全く考えてなかった。
テオの顔を見ずに答えた私にテオは優しく微笑んで頭を撫でる。
「マリさん、嫌だったら思い切り嫌って言っていいんだよ。僕がどうにかするから。」
こういう時のテオは、とても優しい。
いや、テオはいつも優しいんだけど。
いつもは貧弱で、頼りなくて、幸薄そうで、ぶさいくなのに。
こういう時だけ、ぶさいくは変わらないけど、とっても頼れる男に見えてくる。
昔飼っていた犬が死んでしまった時も、こんなふうに頭を撫でてくれた。
テオの前でだけ、私は泣くことが出来た。
テオ以外の人の前だと、私は堂々と振る舞わなければいけないから。
「わかった。考えるね。」
テオのおかげで私は前を向けているのかもしれない、なんて思ってしまった。