大切なものを選ぶこと
『政略結婚』という言葉に馴染みがなくて、しばらく考えていると
「おい…楓」
少し…いや、かなり怒ったように聖弥さんが声を上げた。
そして、聖弥さんは諦めたように私のことを真っ直ぐに見た。
はじめて聖弥さんと目が合ったけど、吸い込まれてしまいそうな切れ長の目は、決して冷たくはない。
「勘違いするな。……政略結婚なんかじゃない」
「え…?」
「俺が楓に惚れたんだ。惚れて惚れて、惚れ抜いて、嫁に来てもらったんだ」
だから、政略結婚なんかじゃない。
「組も同盟も立場も関係なく…俺はただ、愛してやまない女を嫁に貰っただけだ」
「……………」
「……………」
「……………」
これは…ヤバい…。聞いてるこっちの顔が赤くなってしまう…。
これはちょっと…ズルいくらいに格好いい…。
「聖ちゃーん…かなり恥ずかしいこと言ってるの自覚あるー?」
「ッッ!」
楓さんの言葉で我に返ったらしい聖弥さんは手で顔を隠してしまった。
「……さっき言ったことは…忘れてくれ」
小さく言うけど、あんなに熱烈な愛の言葉、忘れられるわけがない。
弘翔や楓さんなんか爆笑してるし…。
──「いやー、笑った笑った。やっぱ格好いいですよ聖弥さん」
「黙れ弘」
笑い倒して、揶揄うように言った弘翔に聖弥さんは少し照れたように返した。
遥輝さんの時も思ったけど、仲いいんだな。
「さて、俺はそろそろ夕飯作るの手伝いに行くかな」
「……弘、俺も行く」
そう言い残して弘翔と聖弥さんが席を立ってしまったので、楓さんと桜さんと夕飯まで色々な話をして過ごした。