大切なものを選ぶこと



「──お前達。改めて弘から話があるから飯の前に聞いてやってくれ」





楓さんたちと連れ立って大広間に行けば、すでにご飯の支度は完璧だった。




上座には昌さんと聖弥さんが座っていて、あとは各々適当に座っているみたい。




私は楓さんたちと一緒に弘翔や遥輝さん、高巳や純さんが集まっている一角に座る。





各々がグラスに飲み物をついで、今まさに宴会が始まるというところで上座から昌さんが楽しそうに声を掛けた。







「「えぇーーー!弘じいのはなしはいいからはやくたべたーい!」」




「おい!凌雅!大雅!頼むから静かにしてくれ!」






昌さんの言葉に欲望を忠実にぶちまけた双子を慌てて遥輝さんが止めに入る。




でも…慌ててるのは遥輝さんだけで、組員さんたちは大爆笑中だ。





しかも…





「そうだぞ弘~!腹減ったから早く話せ!」




「弘さ~ん!飲みたいんで早くしてくださいよー!!」




「よっ!弘じい!!」




「おやっさん!俺と純さんは弘が話す内容知ってるんで、先に一杯始めてていいすか?」




「あら、じゃあ私たちも食べ始めていいのかしら?」






双子に便乗して…みんな自由だ。





小さくため息を吐きながらも笑っている弘翔を見ると、これが通常のノリらしい。




弘翔より年上の組員さんたちは普通に呼び捨てタメ口だし、年下の組員もかなり砕けた口調だ。軽口なんかも言い合っている。





思っていた極道の上下関係とは全然違うけど、この雰囲気は嫌いじゃない。








──『お前達…いい加減にしろよ』と項垂れたように呟いた弘翔は長めの溜息を吐くと、意を決したようにその場に立ち上がった。





私を見つめて、目が合うと小さく笑って、小さく頷いてくれた。




”大丈夫だ”とでもいうように。







「ご期待に応えて手短に紹介する。横手美紅さん、俺の最初で最後の…最愛の人だ」





弘翔が頭を下げたので私も急いで立ち上がって頭を下げた。





誰かが茶化すような口笛を吹いた気もするし、『うわっ、熱烈…』という呟きが聞こえたような気もするけど、気のせいだと思うことにした。








「極道の男の愛は重いらしいからな。俺もどっかの組長同様、独占欲が強い。必要以上に美紅に接触する奴がいればどっかの組長同様、半殺しにしてしまうかもしれないから…その辺よろしくな」






弘翔の言葉にみんなの視線が一斉に上座に向いた。




< 120 / 231 >

この作品をシェア

pagetop