大切なものを選ぶこと
好きだと伝えた先に
─美紅side─
秋庭さんと別れて、家に恐る恐る帰ると悠太は何事もなかったかのように寝ていた。
この人にとって私はただのお金を稼ぐための道具でしかないのだと思うと、無防備な悠太の寝顔が憎くてしょうがない。
それに比べて…こんなこと思っちゃいけないのはわかっている。
でも、あの低くて甘い、少し掠れた声、穏やかな笑顔、優しい言葉。
あの人の顔と声と言葉を思い出すだけで胸が躍って頬が熱くなる理由に私は気づいている…
一目惚れや一瞬に恋に落ちるなんてことが本当にあるのだと身をもって実感してしまった。
「んー、おはよ美紅」
「おはよう」
朝、と言っても昼前だけど…起きて何事もなかったような態度の悠太に当惑する。
あれ…?昨日わたしこの人に浮気されたんだよね…
浮気のことを問いつめていいのか、それとも何も言わないほうがいいのか…
でも、このまま浮気された状態だと本当に私はお金を稼ぐための道具じゃないか。
「昨日の女の人、誰?」
「あ?」
「浮気…してるんだよね?」
「……………」
答えずに視線を彷徨わせた悠太は薄く笑った。
自分は何も悪いことはしていないというように。
そして…ゆったりとした動作のまま私のことを抱きしめた。
「ッッ…」
「俺が愛してるのは美紅だけだよ?
なんで信じてくれねえの?」
何を言ってるんだ…この人は
でも…悠太の目は全く笑ってなかった。