大切なものを選ぶこと
第三章
西の極道の人
──お祭りの日から2週間が経った。
「テスト終わった~!!」
「お疲れ」
先週からのテスト期間が今日でやっと終了。
それなりに勉強して臨んだからおそらくフル単だろう。
そして…今日から夏休み!!
8月30、31日は秋庭組で海旅行だし、それ以外にも就職が決まっている由美子たちと遊ぶ予定が詰まっている。テストを頑張った甲斐があるってもんだ。
ちなみに、私の卒業後についてはちゃんと弘翔と話し合った。
極道である弘翔と一緒に住んでいる以上、おそらく普通の会社に就職できないことは分かっていた。
『不自由をさせるつもりはないし、俺の収入は全て美紅に預けて小遣い制でも構わない』
弘翔は決して「働くな」とは言わなかったけど、ここまで言われてしまえば弘翔の気持ちなんて嫌でもわかってしまう。
同時に、ここまで信頼されていることが嬉しかったり。
『本当にやりたいことがないなら…』と言葉を濁す弘翔に甘えて、花嫁修業をすると決意した。
流石に何もしないのは張り合いがないのでバイトだけは続けることになったけど。
両親には詳しいことは告げず、東京に残ることだけを伝えた。お父さんは何かを聞きたそうだったけど、言葉を飲んでくれた。
当然だけど、お小遣い制も丁重にお断りした。
普通の社会人の何倍も収入がある弘翔から家計を任せられるなんて恐れ多い。
今もそうだけど、この人は必要以上すぎる生活費を渡してくるから、お小遣い制にする意味も皆無だ。
「あ、そうだ美紅」
「んー?」
「明後日、大規模な会合があるんだが」
「会合…?」
「あぁ。半年に一度、同盟や傘下の組がすべて集まる会合があってな。今回は秋庭本家が会場だから、この機会に美紅を俺の女として紹介しておきたい」
「…うん、わかった」
一緒にいると決めたんだ。
この先どうなるかわからないけど、極道の世界のことも知っておかなければ。
「ね…それに行く女の人って私だけじゃないよね?」
「まさか。組長や若頭クラスの女や娘が飲みの席や他の手伝いでたくさん来るよ」
強面の男の人たちの中に一人だけ女は…と思ったけど、そうでもないらしくてよかった。
付け加えて『お袋は勿論、楓も聖弥さんの付き添いで来るぞ』と言われて安堵の溜息が出た。