大切なものを選ぶこと
隣を伺えば、弘翔があまりにも困った顔をしているので私も高巳に釣られて笑ってしまう。弘翔のこんな表情、ホントに珍しい。
たしかに、モテることなんか自分じゃどうにもできないもんね。
「毎回、会合の時は女の子たちが弘のこと狙って殺伐とするんだよね」
「そんなに?」
「そりゃ、秋庭と関係を持ちたいっていう各組の思惑も錯綜するし…なんたって、顔が良いからね我らが若頭は」
「…高巳」
「それに、弘は基本的に誰にでも優しいし」
「おい、高巳…」
「傘下の組の娘が弘と少しでも会話しようものなら同盟の組に締められるし、同盟の組の娘が弘の気を引こうものなら他の同盟の組が黙ってない。そんな感じかな」
「高巳!……もう勘弁してくれ」
やっぱり珍しい表情の弘翔。
その焦った感じがあまりにも珍しくて、高巳と一緒に爆笑してしまった。
『美紅の彼氏じゃなかったら勘違いしちゃうくらい秋庭さんって優しいよね』
以前、真希と加奈に言われた言葉を思い出す。
あの時は笑って流したけど、二人の言葉は間違いではなかったのかな。
気遣いができるというかコミュ力が高いというか、人当たりがいいというか…冷静に考えると、弘翔って顔以外にもモテる要素の塊だ。レディファーストが当たり前な人だし。
「それに…いい声だし…いい身体してるし…」
「…美紅、声が漏れてる…」
あら、思っていたことが声に出てしまっていたらしい。
恥ずかしかったらしい弘翔は片手で顔を隠している。
あぁ…こういうところは可愛いよね。
「弘翔さん」
彼氏様がカッコいい云々は置いておいて、真面目な声で呼べば、『はい…』と神妙な声で返される。
どうやら私の言いたいことは分かっているらしい。察しが良すぎるのはどうなんだろうか。
「私が他の男性と話したり仲良くしたら、あなたいつもブチ切れますよね?」
「……はい…」
前に私がバイト先のコンビニの後輩にメールで告白された時、次の日バイト先まで来て後輩君を
『いい女だから惚れるのは分かる。が、指一本触れてみろ…殺すぞ』
と脅して泣かした前科がある。
ちゃんと断ったって何度言っても聞いてくれなかった。バイト先を変えてくれと言われ、揉めたのが記憶に新しい。
誰にでも優しくて気前がいいくせに、私の彼氏様は超が付くほど嫉妬深い。まぁそこも可愛いんだけど。
だから私は極力、弘翔以外の男性とは距離を取るように努力してるのに…自分は私以外の女の子に優しいって…どうなのコレ。拗ねる権利くらいある気がする。
ジトリと弘翔を睨むと、私の言いたいことがわかってしまった察しの良い彼氏様は気まずそうに眼を逸らした。