大切なものを選ぶこと


─美紅side─




そして待ちに待った8月30日。




6時半には起きていて、8時には家を出る予定だ。



昨日のうちに泊まる準備はしたから大丈夫なはずなのに、忘れ物がないか心配で朝から大慌て。




それなのに…




「弘翔~!準備は!?」




ソファーで優雅にコーヒーを飲みながら今日明日の天気と渋滞情報を確認している呑気な彼氏様。





「財布と着替えがあればなんとかなるだろう」





「そういう問題!?」





「男なんてそんなもんだよ。まだ時間あるからゆっくり準備して大丈夫だぞ」




財布と着替えがあればなんとかなる…極論すぎる!



マメな性格なのにこういうところは意外と適当らしい。誰に似たんだろうか。昌さんも椿さんも準備とか周到な気がするけど。




まぁ、男の人は女性陣と違ってメイク道具は必要ないし、シャンプーやリンスも宿の備え付けのもので十分みたいだからあまり用意するものがないっていうのも分からなくはない。




「そういえば…今日ってどうやって行くの?」




弘翔と暮らすようになってから、送迎は全て純さんがやってくれていたから完全に失念していた。



純さんだって今日は一家のお父さんとして奥さんとお子さんと参加するはずだ。




てことは電車かな?





「何言ってんだ…車に決まってるだろう」





「え、誰が運転するの?」





「ん?俺以外の誰がいるんだよ」





「弘翔って運転できるの!?」





驚いた声を上げれば、一瞬呆気にとられたような顔をした弘翔は盛大に笑いだした。



だって運転してるところ見たことないし、いつもは組専用の車で送迎されてるから、弘翔が車持ってるかも知らないし…!




「そうかそうか。俺、美紅の前じゃ運転したことなかったな。バイクも車も持ってるぞ」





「バイクも??」





「おう。でもバイクは危ないから乗せないけどな」




ちょっと期待の込もった目で見つめてしまったことがバレてしまったらしく、軽くいなされた。



バイク乗ってる弘翔、カッコいいんだろうなぁ…。








──「準備できたか?そろそろ行くぞ」





「うん!」





丁度8時前に家を出ることができた。




改めて確認したことってなかったけどこのマンションの地下には駐車場があるらしく、エントランスで待っている間に弘翔が車を取ってきてくれた。





「ほれ、乗った乗った」




どこぞの運転手よろしく、私の荷物を後部座席に積んで助手席のドアを開けてくれた弘翔に促されるまま車に乗り込む。




聖弥さんや遥輝さんのような外車ではないけれど…



国内最大手メーカーが展開しているプレミアムブランドの車であるという事は車に疎い私でもわかってしまった。




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