大切なものを選ぶこと
私は…やっぱりこの人が好きだ…。
どうしようもなく…この人を愛したいと思ってしまっている自分がいる。
でも…
「私…そろそろ帰りますね…」
悠太と別れることはできないし、秋庭さんに縋る訳にもいかない。
──もし…秋庭さんにこの想いを伝えるなら…
きちんと悠太との関係を清算してからがいい。
「なぁ、美紅」
帰ろうと腰を上げたけど、秋庭さんの視線と声がそれを許してくれなかった。
「今、幸せか?」
「……………」
「あの男といて、本当に幸せか?」
「……………」
優しく落とされる言葉に何も言い返せない。
でも、秋庭さんの言葉は責めているわけではなくて…諭すような声で…また目尻が熱くなってしまった。
「俺はただ…惚れた女には笑っていて欲しいんだよ。
それだけでいい…それだけでよかったんだ…」
‘でもな’
「俺は一度も美紅が心の底から笑ってるところを見たことが無いんだよ」
グッと腕を引かれて秋庭さんに抱きしめられる。
二回目の秋庭さんの腕の中はやっぱり温かい…
「別に俺が美紅のことを笑顔にしてやれるわけじゃないかもしれない」
‘だが...’