大切なものを選ぶこと
「てめぇ!美紅に手ぇ出してねぇだろうな!?」
秋庭さんの胸倉を掴んで睨みつける悠太。
当の秋庭さんはどこ吹く風で悠太を冷たく見下ろしている。
あんまり気にしてなかったけど…悠太が178㎝あるのに、それを見下ろすって…
秋庭さんは185㎝くらいある…
いやいや、今はそんなことどうでもいい。
「まだ自分のになってない女に手を出すほど飢えてないし、大事にしたい相手にそんな簡単に手なんか出せるかよ」
「おいお前…昨日から聞いてれば、美紅のことが好きだとでも言いてぇのかよ?」
「さぁ?どうだかな」
「あぁ!?」
「美紅に対して言ってない言葉をお前に言うなんざ酔狂な話だろう。好きに受けとってくれ」
苦虫を噛み潰したような顔をした悠太は無造作に掴んでいた手を離した。
「行くぞ!美紅!」
声を荒げて私の腕をとる。
私の腕をとって歩き出した悠太に、秋庭さんが低く言った。
「覚えておけよ。
俺の大事な相手の身体に少しでも傷をつけてみろ。いいか、忘れるなよ」
後に続く言葉は言わずに妖艶に口角を上げた。
秋庭さんの低い言葉と絶対的なオーラで悠太が息を呑んだのがわかる。
それくらい、今の秋庭さんの言葉と視線は絶対的だった。
そして…強引に腕をとられた私の顔を優しく見てから、秋庭さんはふっと笑った。
「俺は何があっても味方でいるからな。美紅」
私の大好きな低くて、少し掠れた声。
その声を背に、私は秋庭さんの部屋を出た。