大切なものを選ぶこと
─弘翔side─
美紅を家に帰らせてから一人で狭い部屋の床に腰を下ろす。
さて…どうしたものだろうか…。
俺の腹はもう決めた。
後は…極道と一般人…俺は未だに美紅に本当のことを言えていない。
美紅が覚悟を決めてあの男と別れるのだ。
俺も覚悟を決めないとだな。
──「無事に別れられるか…」
誰に聞かせるわけでもない独り言が漏れる。
殺気と視線で圧は掛けておいた。
美紅からの別れ話を聞いても流石にすぐに手は出さないだろう。
だが…あの男のことだ、どうなるかなんてわかりきっている。
出来ることなら俺が立ち会ってる状態で話をつけて欲しい。
それくらい、あの男は危険だ。
でもそれは俺のエゴでしかなくて…美紅が己で解決すると決めたのなら俺は信じるだけだ。
辞めようと決めたはずの煙草が恋しくなった。
筋を通さなければならないことがある。
俺には美紅以外にも守らなければならないものがあって、守らなきゃいけない人がいて、俺の為に命を懸けてくれる男たちがいる。
今、抗争で組が混乱している中、俺の私情で迷惑をかける訳にはいかない。
──さて、この抗争を早く終わらせよう。
それが目下最大の為すべきことだ。
組が落ち着いたら、親父と兄貴に話を通して美紅を奪いに行く。
頼む美紅、それまで待っていてくれよ。
美紅に対しては散々、待っていると約束したのに…本当は俺が待ってもらう立場なんだ。
そう思うと自嘲的な笑みが漏れる。
──ピンポーン
相も変わらず軽い音だな…
「弘さん!!」
おいおい、純。
そんなに慌てるなよ、ただでさえ強面なのにもっと極悪面になっちまってるぞ。
「おやっさんがお呼びです!
今すぐ組に戻って指揮を執るようにと!」
いいタイミングじゃないか…。