大切なものを選ぶこと


──バイトをしながらぼーっと考えてしまう。




どうしたらちゃんと話をしてくれるだろうか…




どうしたら別れてくれるだろうか…





多分、強く別れ話を切り出したら悠太は手を出す。





今は、秋庭さんが釘を刺してくれたのと、私が直接的な別れ話をしていないから大丈夫だけど…




頭に血の上った悠太は何をするかわからない。






もう今更、悠太に殴られようが蹴られようが構わない。




でも…あの人だけには…秋庭さんだけには心配を掛けたくない。






グダグダとまとまらない脳内会議を繰り広げている間に今日のバイトは終わった。





あぁ…帰りたくない。




できることならもう…顔も見たくないのに…





悠太に何を言われても話し合おう。




最悪、家を出ればいい。





お父さんに事情を話して、一時的にお父さんたちのいる関西に戻ったっていい。





今は、悠太と別れることだけを考えよう。





そう決意していつもの家路についた。








──「ただいま…」




そっとドアを開ければ、寝ていたらしい悠太が起き上がる気配がする。






「おかえり、美紅」






付き合った当初、好きだったころは輝いて見えた笑顔で言われる。





今は…何も思わないし、秋庭さんの笑顔が頭をチラついてしょうがない。





もう、覚悟を決めよう。






「悠太、大事な話があるの。
話も聞いてくれないなら私は今すぐここから出ていく」






意を決した言葉に返ってきたのは、思っていたものとは違うものだった。






「うん。大事な話ね。わかった、いいよ」





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