大切なものを選ぶこと
──パシッ
乾いた音がして…一瞬、何が起きたのかわからなかった。
でも…頬がだんだんと熱くなるのと痛みを感じ、何をされたのか理解した。
「俺以外の奴を好きになった?
別れてほしい?
だったら俺はもう一回、美紅を俺に惚れさせてみせるよ」
「そ、そうやって…すぐに手をあげる人のことを好きになれるわけないでしょ…」
痛む頬を押さえながら言うと、もう一発、頬を殴られた。
「もうお前はこの部屋から一歩も出さない。そうすればあいつのことなんか忘れるし、もう一度俺のことを好きになってくれるだろう?」
「ッッ、」
「飴と鞭って言うだろう?大丈夫だよ。
殴って、傷つけた分だけ優しくしてあげるから」
悠太は不自然なくらい口角を上げて笑った。
でもその目は私を映しているわけではなく、狂気に揺れていた。
──それから本当に悠太は私を部屋から出してくれなくなった。
食べ物や消耗品はネットで注文し、私も悠太も部屋から一歩も出ない生活。
口を開けば殴られ、蹴られ、顔中が痣だらけになった。
そんな私の顔を見て嬉しそうに顔を歪める悠太は、気が済むと今度は私を好きなだけ抱く。
殴られ、蹴られ、抱かれる。
そんな生活が2週間続いた。
期待しているわけではない…
待ってくれと頼んだのは私の方だ。
でも…心のどこかで秋庭さんが助けてくれると思っていた。
それなのに…秋庭さんは助けには来てくれない。
それどころか、この2週間…隣の部屋は人の気配が全くない。