大切なものを選ぶこと



声の方を見れば、珍しく疲れた顔をした夏樹が立っていた。




ここは秋庭組専属の病院でその跡取りが夏樹なのだから居てもおかしくはない。





だが…なぜ止める…






「なぜ止めるって思ってるだろ~?
いやね、俺は今から弘が向かおうとしてる子に一度会ってるからね。行かせてやりたいとは思うんだけどさ」






そんなに顔に出てたか…俺…






「ぶっちゃけさ~無理でしょ?」





含み笑いで言う夏樹の言葉の意味が分からなくて、無意識に顔をしかめた。




そんな俺の表情を見て夏樹は遠慮なく笑いやがった。







「高巳から聞かんかった?太腿の動脈損傷。まだ立てないよ」





「…マジか?」





「うんマジマジ。大マジ。
まぁでも…弘の回復力なら一週間もすれば歩くだけなら余裕だと思うぜ~」






「…それじゃ遅いんだよ」






「「え?」」






高巳と夏樹の声が重なる。





今すぐにでも美紅の元へ行かなければならない。




それが無理ならせめて…無事でいるのか確認したい…





ならば…






「高巳、頼みがある」






低く言えば、察した夏樹は苦笑いを浮かべて病室を出ようとした。







「俺は秋庭の専属医師で、どちかってーと組寄りの人間だけど…極道の血生臭い話は御免だから失礼しますかね~。
三時間後にまた経過見に来るからよろしく」






夏樹はいつも通りの軽い口調で言って、本当に部屋を出て行った。




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