大切なものを選ぶこと
「で、なんだよ頼みって?」
俺が言わんとしていることも、俺が行こうとしていた所も全て察している高巳は心底呆れた表情を浮かべた。
「知ってんだろ、俺と美紅のこと」
「…そりゃ、我らが組の若頭が一般人に誑かされないようにするのがお前の側近である俺の役目だと思ってるからな。悪いが全部調べさせてもらった」
「だったら!美紅の彼氏がどんな男なのかわかってんだろ。何事もなく別れているわけがない。美紅が無事かどうかだけでもいい…頼む、調べてきてくれないか」
沈黙の後、高巳が大きく息を吐く。
部屋の隅では純が目を閉じて待機している。
「俺、前に言ったよな。
一般人に手なんか出しても、相手の子も、弘も…いい事なんかないって」
「わかってる。それでも…美紅をこの世界に巻き込んででも手に入れたいって思っちまった。
この世界で生きている限り、女に対してこんな感情抱くとは思ってなかった…。だが美紅のこと、大事にしてやりたいって思った。俺は心底、美紅に惚れてる。だから高巳…頼む」
「…それは側近としての俺に頼んでるのか…それとも親友としての俺に頼んでるのか…どっちだ弘?」
「…どっちもだ。
10代の頃から一緒にいて、二人で馬鹿やって笑い合った男に…。この世界で俺が生きていくのに必要不可欠で、命を預けている男に…。
好きな女の事を認めて欲しくて頼んでる」
「…………。」
「…………。」
「……悪くない答えだ。
悪友で上司の頼み、無下にはできそうにないな。
ただ、俺が認めてもおやっさんと…蓮さんは怖いぞ」
「高巳、恩に着る。
親父も兄貴もお前と同じだ。必ずわかってくれる」