大切なものを選ぶこと
「ちょ、ちょっと待てよ美紅!!」
包丁片手に戻ってきた私に悠太が上擦った声を投げる。
「俺はただ、お前を愛してるだけなんだ!」
「………うるさい…」
──叫ぶ声を無視して包丁を力いっぱい振り上げた。
だけど…
「…ッッ、、、」
「調子に乗るなよ!このクソアマがぁ!!!」
私の包丁が振り下ろされるよりも早く、悠太の蹴りが私の横腹に入った。
あまりの激痛に思わず息が止まり、包丁を落とした。
「人が優しくしてやってれば調子に乗りやがって…!」
─パシッ、
─パシッ、
─パシッ、
悠太に馬乗りになられて、頬を何発も殴られる。
男と女の体格差に加えて、何日も食べていない身体でまともに抵抗なんかできなかった。
──麻痺した痛みの中で私はゆっくりと意識を手放した。