大切なものを選ぶこと
俺と高巳の神妙な顔を見た夏樹が困ったような表情を浮かべた。
「あー、俺、外した方がいい感じ?」
「いえ、俺は居てもらっても構いませんよ、夏さん。弘は?」
高巳の視線に小さく頷いて返す。
「後々、組にもお前にも美紅とのことは話すつもりだったんだ。別に外す必要はない」
「そ?じゃ、遠慮なく俺も聞かせてもらうかな」
飄々とした態度で言って近くにあったパイプ椅子に腰を下ろした。
「──横手美紅が今朝方、救急車で病院に運ばれた」
「…は?」
「落ち着けよ」
無意識に高巳の胸倉を掴んでしまっていたらしい。
乱雑に手を放してから先を促す。
「ここ二週間ぐらい…平野悠太にどうも軟禁されてたみたいなんだよな。
で、これは俺の憶測だけど…平野悠太による暴力で意識不明、さすがに焦った奴が救急車呼んで緊急搬送って感じ」
グッと拳に力がこもる。
俺があの時、あいつの元へ美紅を帰さなければ。
あの時、覚悟を決めて美紅に好きだと伝えていれば。
いくら考えて後悔しても、全て後の祭りだ。
だからもうやるべきことは一つだ。シンプルでいい。
「どうすんだ、弘」
「決まってんだろ。美紅を迎えに行く」
「お前…歩けないだろ…」
「そこのドS野郎のおかげで問題ない」
「アレ、これ俺もしかして褒められてるー??」
「黙れ」
「へいへい。ま、無理はしなさんなよ」
へらりと笑う夏樹に‘さあな’と小さく返す。