大切なものを選ぶこと
極道の世界
───次の日
眩しい日の光とやかんのお湯が沸く音で目が覚めた。
ゆっくりと目を開けると見慣れない天井が見えて、一瞬ここがどこだかわからなくなったけど…
「おはよ、美紅」
台所から秋庭さんの声が聞こえてきて、あの後そのまま秋庭さんの家に泊めてもらったんだと思い出した。
──秋庭さんはとっくに起きていたらしく、湧いたお湯をカップに入れてコーヒーを作っている。
「今…何時ですか…?」
「ん?朝の7時前だな。もう少し寝てていいぞ」
優しく笑って頭を撫でられて何となくむず痒くなる。
今までだって十分優しかったけど…彼氏モードの秋庭さんの破壊力は今までの比じゃなかった。
声とか表情とか…動作の一つ一つをとってみても、カッコよくて…甘くて…ズルい。
こんな人の彼女になれた実感なんか湧かないし、本当に秋庭さんの優しさがくすぐったい。
「秋庭さん…何時から起きてるんですか…?」
寝ぼけ眼で何となく訊ねてみると、秋庭さんは困ったように笑った。
あー…とかなんとか言いながら言葉に迷っているみたい。
アレ、なんか変な事聞いたかな…?
「秋庭さん…?」
言い淀む秋庭さんの顔を見ると、困ったような照れたような…
少しだけ動揺した秋庭さんはとても可愛いけど…
そう思っていると…
──ピンポーン
軽いチャイムが鳴って、あからさまに秋庭さんがホッとした顔をした。
そんなに変な事聞いたかな…?