大切なものを選ぶこと
──そして、和やかな話が終わり、高巳が真面目な顔で組の話を切り出した。
秋庭組が関東で最大規模の組であり、秋庭さんがその跡取りであること。
現代ではヤクザは一般人とは一線を引いた世界にいるが、その実、繁華街と呼ばれるようなところではヤクザが大きく介入していること。
秋庭組は薬、つまり違法ドラッグでの利益を得ることは傘下や同盟の組に至るまで禁止していること。
じゃあ何で利益を得ているのかと問えば、株や繁華街でのクラブやキャバクラの経営、あとは言葉を濁された。
そして秋庭組の組織のこと。
組員たちから『親父』と呼ばれている組長を頂点に、組長代理、若頭と並ぶ。
その下に幹部がきて、その筆頭が純さん、組長付きの側近、若頭付きの側近つまり高巳と続く。
極道の世界は血縁による世襲制ではなく完全実力主義。
人と人と繋がりや信頼は杯を酌み交わすことで成される。
今の代はたまたま秋庭さんの実父が組長の座にいるけど、秋庭さんは完全に実力で若頭の地位にいること。
組を継ぐのは秋庭さんに決まっているが、その上には組長代理と呼ばれる、実質組のすべての指揮を執っている人物がいること。
全国には三つの大きな組があり、昔は争っていたが、その勢力があまりにも強大すぎるため、今では一つの同盟会として手を組んでいること。
それが南関東を統括する秋庭組、北関東を支配する春名組、そして西日本一帯を治める柊組によって構成されていて、『三季会』と呼ばれている。
現在の三季会の会長は秋庭組の組長であり、春名組、柊組の組長は副会長の地位にある。
秋庭さんのお姉さんの一人が春名組現組長の奥さんであり、柊組の組長と秋庭さんのお兄さんは親友であるらしい。
秋庭さんの一番上のお姉さんは春名組に嫁ぎ、二番目のお姉さんはカタギの人と結婚して今は秋庭の名前を捨てて一般人として生きている。
『二人とも関東に住んでるから、なんだかんだで頻繁に帰って来るんだよなぁ』
秋庭さんは呆れた様子で言っていた。
妹さんは高校3年生であるらしい。
一通り、組のことや秋庭家のことを教えてもらった。
私には知らない世界の話で、分からないことはその都度聞きながら説明してもらったけど…
高巳も秋庭さんも…秋庭さんのお兄さんのことについては何も教えてくれなかった。
高巳曰く、
『あの人を一言で説明するなんて無理だよ。てか俺なんかが説明していいような人じゃないんだよ』
秋庭さん曰く、
『俺が世界で一番信頼してて、尊敬している人だよ。兄貴のことは会ったときにちゃんと紹介する』
とのことだった。