大切なものを選ぶこと
「それで…今後のことなんだけど」
組についての説明を終えて、高巳が切り出す。
そっか…もう今までのような生活は送れないのかぁ…
そう思ってたけど、私の考えは杞憂に終わった。
「美紅、5月からまた大学に行け。俺の為に何かを我慢する必要なんかないって言ったろ。大学の為に上京してきたんだろう?だったら、ちゃんと卒業するのが親孝行だ」
秋庭さんに優しい瞳で見つめられて、胸が焼かれたように熱くなった。
そうだ…ここ二か月くらい実家には全く連絡してない…
お父さんもお母さんも絶対に心配している…
「ここにはもう住めないからね。弘のマンションの近くのアパート押さえておくよ。そこで一人暮らしってことでいいかな?」
「うん」
「5月か6月、身の回りのことが落ち着いたら組長に面通しね。そしたら少しだけ護衛つけさせてもらうね」
「え……?」
「大丈夫大丈夫。日常生活には全く支障がない程度だから。さすがに何かあってからじゃ遅いからね」
「わかった…」
少しだけ申し訳なさそうな顔をする秋庭さんと高巳にこっちまで申し訳なくなってくる。
私が自分で決めて秋庭さんと居ることを選んだんだからそんな顔しないでほしい…。
「弘は表の世界には顔割れてないからデートは普通にしてくれていいし、ま、普通に交際してくださいな」
茶化すように高巳に言われ、顔が赤くなった。
隣を見ると秋庭さんもばつの悪そうな顔をしていた。
「とりあえずさ美紅ちゃん、絶対に必要な物だけここに書き出してくれるかな?俺と純さんであっちの部屋から運び出して、新しいアパートに持ってっとくからさ」
「え…??」
高巳の言っている意味が分からなくて秋庭さんを見ると、
「あんな男と住んでいた部屋にはもう戻らなくていい」
と不機嫌な顔で言われた。
そして…
「弘さんと美紅さんは早く病院に行ってくだせえ」
という純さんの言葉で強制的に車に乗せられた。