大切なものを選ぶこと
病院までの道中、ふと疑問に思って秋庭さんはどこかケガしているのかと尋ねると…笑って誤魔化された。
──「お、きたきた~」
来たこともない、少し裏路地にある小さな病院に着き、診察室に入ると…何故か診察台に白衣を着た男の人が寝ていた。
緩い声と共にのっそりと起き上がった人は…
以前に秋庭さんの部屋で見たことのある男の人だった。
改めて見ると…医者なのに茶髪の長髪を後ろで一つに縛っているし、寝起きだからか眠そうな目をしているけど…かなりのイケメンだ。
というか…この人も絶対に年齢詐称系の人だ…!
秋庭さんといい高巳といい…モデル並み、いやそれ以上のイケメンに会いすぎな気がする…。
寝ていたせいで乱れたであろう髪を結い直してから茶髪イケメンさんは椅子に座りなおした。
「初めまして。ま、初めてじゃないんだけどね。ここは組専門の病院で、俺はここでヤクザさんに扱き使われている可哀想な医者の柳田夏樹(やなぎだなつき)って言いまーす」
ニコリと笑って夏樹さんに手を差し出されて、思わず握手してしまった。
「趣味は昼寝とナンパ、35歳独身の絶賛彼女募集中!ま、秋庭とはちょいちょい関わるからよろしくね」
「よっ、よろしくお願いします!」
35歳…うん、ノリも容姿もやっぱり年齢詐称系の人だった。
これで30代とか絶対に嘘だと思う。
「で、美紅ちゃん、君は肋骨だっけ?」
「はい…。折れてるって言われたんですけど…」
正直、そんなに痛くないような…。
確かに咳をしたりすると痛むんだけど…
「うん、大丈夫、折れてないから。その折れてるって本当に医者に言われた?」
あ、そういえば…お医者さんの話は聞いてないような…。
悠太に言われただけだった…。
「俺も最初は高巳の情報を鵜呑みにしちゃって折れてるもんだと思ってたんだけど、ツテとズルして美紅ちゃんが入院してた病院からカルテもらっちゃったんだよね。んで、ちゃんと見たら肋骨はヒビが入ってたよ。コルセットして安静にしてれば数週間で治るかな」
良かった…と胸を撫で下ろしたのと同時に、
「問題は身体じゃないほうだよ」
と夏樹さんの真面目な声が響いた。