大切なものを選ぶこと
「本当に大丈夫だったんだな?」
本気で心配してくれている秋庭さんんは私を優しく抱きしめて額に軽くキスを落とした。
「大丈夫でしたよ。夏樹さんと仲良くなりました!」
笑顔で言うと、納得はしていないみたいだけど安心した表情になった。
それよりも…
「あの…秋庭さんはどこか悪いんですか…?」
ずっと気になっていたことだ。
私は自分のことで精いっぱいで秋庭さんの心配はできなかった。
だけど、改めて思い出すと、やっぱり秋庭さんの歩き方には違和感があったし…さっきも傷口がどうとかって言ってたような…。
私の質問に最初は誤魔化そうとしていた秋庭さんだったけど『そうだな、もう誤魔化すのはなしだな』と笑ってから、
「抗争中にな、ヘマして太腿撃ち抜かれたんだよ。そんなに心配しなくていい」
と、事も無げに言った。
抗争…そうだよね、極道の世界だもの。
何もなくて平和だけなんてことある訳がない。
銃なんて漫画の中でしか見たことのないような物で命を落とすことがある世界なんだ…。
「美紅は何も心配しなくていい。何があっても必ず俺が守る」
「はい…」
いつもの甘い声で言った秋庭さんはやっぱり最高にかっこよかった。
───本当に色々なことがあった一日だったけど、今日から新しい生活が始まる。
秋庭さんの彼女として、普通の女子大生として。
ちなみに、高巳の用意してくれたアパートは今までのボロアパートとは比べ物にならないくらい綺麗でオシャレなとこだった。
秋庭さんの住むマンションは安全を考慮して教えてくれなかったが、近くにあるらしい。
悠太と住んでいた部屋から持ってきたのは、携帯と大学の教科書などの必要最低限だけ。
新しい場所で、新しい世界で、大好きな人と一緒に…新しい生活が始まる。