紳士系同期と恋はじめます
紳士系同期と恋はじめます
たぶん、最初に惹かれたのは、声だった。
何回目かも分からない会社の集団面接。
私は隣に座った人の声に圧倒されていた。
低くて、深みがあって、淀みがなくて。
言葉の選び方が丁寧で、まるで音楽を聴いているかのように、心地よい喋りだった。
一方の私は、何一つ話せなかった。あがり症で人前に立つと、声が震え、頭が真っ白になってしまうのだ。
だから、面接は失敗ばかりで、友人が次々と内定を貰って行く中、私はどこも受からずに、こうして、面接を続けていた。
あぁ、今回も駄目だったな。
だって、隣の人がこんなに素敵な声をしているんだから。
「あ、ありがとうございました!」
半ば投げやりの気持ちで、退出時に勢いよく頭を下げ、目があった面接官に微笑んだことだけ、覚えている。