紳士系同期と恋はじめます


明美ちゃんが言ってた"出る"とはこのことだ。

「あ。きたきた。ねぇ、待ってたんだよ。寝坊?よかったら、コーヒーを飲んでから行かない?」

真冬は寒さとか気にならなそうな巨体。自分の言いたいことをスラスラ喋る一方向の会話。だいぶ、後退してきた頭部。推定年齢40歳。

名前は知らない、おじさんのことだ。

最近、この大柄なおじさんが、朝、しつこく迫ってくるのだ。気持ち悪くて、車両を変えたり、時間を変えたりしてみたのだが、このように、改札前で待たれる始末。

この駅はここしか改札がないから、どうすればいいのか、分からない。

「最近寒くなってきたから、ホットにする?女の子はカフェラテとかの甘いほうが好きなのかな?」

行くとも言ってないのに、お茶の話になっている。拒否したいのに、困ったな。声が出ない。

「あ……あの、」

「もちろん、奢るよ。僕、君のこと待ちすぎてすっかり凍えちゃったよ」

待ってほしいとも、言ってないし。凍えた割には、額から汗出てるし。

どうしよう?どうすれば逃げられるんだろう?
恐怖で震え始めたそのとき。

「糸川さん?」

「……も、元原さん!」

救世主だ。もう、声にならない私は、目で、助けて!と訴える。彼には伝わったらしい。

そっと私の手を引いて、その長身の背中に隠してくれた。

「彼女に何か用ですか?」

「お、お前は誰だ!」

「質問に答えてください。彼女に何か用ですか?」


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