紳士系同期と恋はじめます


「大丈夫か?糸川さん」

すっかり、おじさんの姿が見えなくなってから、彼は私の顔を覗き込む。

「ありがとう……ございます」

恐怖が過ぎ去った安堵で、声が震えたものの、ちゃんと、お礼は言えた。

「いつから?」

「え?」

「今日初めて会った訳じゃないだろ?いつから?」

「……えっと、2週間ぐらい前から……です」

最初は挨拶をされるぐらいだったのに、こうして待ち伏せされてしまうようになった。どうして、私なのかは分からない。

不意に額を押さえられ、グイッと上に向かされた。目の前に眉を潜めた元原さんがいる。

「どうして、言わなかった?こんな不安そうな顔をしてるのに、誰にも相談しなかった?」

「それは……」

元原さんの手が額にある。それだけなのに、鼓動が加速する。

「俺ってそんなに頼りない?」

見つめる元原さんの瞳が悲しそうに見えて、私は間髪入れずに言葉を発していた。

「そんなことないです!」

普段、ハキハキ喋ることのない私の堂々とした口調に、彼は少し目を見開いた。

「元原さんが頼りないとかじゃなくて……ご迷惑をお掛けしたくなかったんです。痴漢されてる訳じゃないし、実害は何もないし、大袈裟にするのはちょっと……」

「迷惑じゃないし。大袈裟にすべきだろ。女の子なのに」

何やってんだと、呆れたように、ため息をついた後、元原さんは頭をポンポン叩いた。

「決めた。俺、糸川さんと一緒に通勤する。家まで迎えに行くから」

「え、ええ!?」

「決定事項な」

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