料理男子の恋レシピ
お味噌汁
あれから、数週間。
平日1回と土日に1回、省吾さんの家に家事をしに行く。料理をするのは土日の1回。
省吾さんはスパルタだけど、きちんと教えてくれる。
どちらかというと、面倒なのは会社の方。
あの合コン以来、省吾さんとのことが変な感じで広がっている……
主には私が悪いように。
「西原さん、省吾さんの家に押し掛けたらしいよ。」
「それ、ストーカーじゃん。」
「省吾さんに言い寄るとか身のほど知らずよね。」
などなど。
あの日送ってもらったことや、家が隣なことに尾ひれがついて、広がったらしい。
こそこそ言っているつもりなんだろうけど、聞こえてくる。
同じ部署の人に言われてないだけましかなぁ……
合コンに参加してたのがうちの部署だったため、部署内で変な風に広がったりはしなかった。普段営業部と関わりがないのもわかっているからかもしれない。
'料理が下手すぎてフラれるという'不名誉な事実だけが、笑いのネタとして広がっただけですんだ。
噂も面倒だけれど、
「西原さん。今度飲みに行きましょう。」
普段関わりのない女性社員に声をかけられる。
またか…
「機会があればぜひ。」
愛想笑いで返すけれど、省吾さん狙いなのがわかってるだけに心底面倒くさい。
いっそ、省吾さんの名前を出してくれたら、'彼とは関わりがない'ときっぱり言えるのに。あくまで、私を誘うのがイヤ。
「はぁ。」
デスクにつき、溜め息をつく。
早く噂なくなってほしいなぁ。
「かなちゃん大丈夫?なにかあったら、相談乗るから。」
由香さんが状況をわかった上で声をかけてくれるのがうれしい。でも、無駄に由香さんに心配かけるわけにはいかない。
「ありがとうございます。直接、嫌がらせされてるわけじゃないから大丈夫です。」
そう伝えて仕事に取りかかる。
見ると、社内メッセージが届いていた。
'同期会のお知らせ'差出人は白石くん。
仕事中に確認するのは、憚られて、休憩中に確認する。
'久しぶりに、同期で飲みませんか。人が揃いそうな日にしたいので、都合のよい日を教えてください。'
どうやら、新人研修が一緒だったメンバーらしい。
入社当時はよくみんなで飲んでいた。でも、部署が違えば会うことも減るし、転職した人もいる。だんだんと飲まなくなっていった。
懐かしいなぁ。
'いつでもOK'
そう、返信すると、すぐに返ってきた。
'日時決まったら、また連絡する。'
みんなに、会える。
楽しみができたぶん、少し心が前向きになれた。