料理男子の恋レシピ
向かい合って夕食を食べる。
「美味しい……」
おんなじお味噌汁なのに、私が作ったものと全然違う。
「出汁には旨味成分があるから。美味しく感じるんだ。その分、味噌の量も少なくて済むから減塩にもなる。」
へぇ………減塩か。
ふと、省吾さんが真剣な目をする。この人のこういう表情珍しい。
どうしたんだろう?
「加奈子。悪かったな。」
へ?!
何に謝られたのかわからない。
ぽかんとする私に彼が続ける。
「俺が送るって言ったせいで、変な噂が流れてるだろ。俺、全然気づいてなくて。この前、拓海が加奈子のこと心配だって言ってるの聞いて、初めて知ったんだ。」
あぁ。そのこと。
「大丈夫です。直接嫌がらせされたわけじゃないですし。」
これは、本当。
「噂のせいで、加奈子は料理教えてもらうのやめるって言い出すかと思ってたんだけど……。」
それは……
「噂の原因はそこじゃないじゃないですか。他の人は私が料理教えてもらってること知らないし。それでなくなるような噂じゃないですから。」
あ、でも。
「'省吾さんの家に押し掛けた'っていうのだけが、気になってます。実際、ご迷惑おかけしてますし、省吾さんはどう思ってるのかなって。」
省吾さんが、きょとんとする。思ってもなかったというように。
「言い出したの俺だから。それに、ギブアンドテイクだろ。加奈子は洗濯とか掃除してくれてるじゃん。」
それにさ、と彼が続ける。
「誰かと食べる料理は一人で食うより美味いだろ。」
そう言って微笑む。
あー。人たらしだ。この人。
「そんなこと言うから、みんな勘違いしちゃうんですよ。」
「さすがに俺も相手は選ぶよ。」
彼にとって、私は家政婦みたいなもので、料理を教える相手で。欠片も恋愛対象じゃないんだなと実感する。
私にとっても。彼は先生で雇い主。
好きにならない人。好きになってはいけない人。
「噂のこと。なんかあったらちゃんと言えよ。」
「わかりました。」
「それと………」
彼が私になにかを手渡す。
鍵??
「明日からかなり忙しくなりそうなんだ。俺いないときに入っていいから、掃除と洗濯頼む。」
え?!
彼女でもないのに、そんなこと。していいの?
「加奈子のこと信用してるから。」
そんなことを言われたら、断れない。
「ありがとうございます。」
それに。
'信用してる'
その言葉がうれしかった。