冷酷王の深愛~かりそめ王妃は甘く囚われて~
「ごめん。私が間違っていたわ」
「わかればいいのよ。それより、今夜は早く休みましょう。明日の朝は、早いわよ」
 とたんに、サーザの顔が、ぱっと明るくなった。

「明日の納品、私も一緒に行っていいの?」
「ええ。明後日はパレードもあるし、ゆっくりと見てきましょう。そのかわり、花を運ぶのを手伝ってちょうだい。思ったよりたくさん咲きそうだから、私ひとりじゃ運べないわ」
「持つ持つ、いくらでも! きゃー、嬉しい! ミリィ、大好き!」
 浮かれるあまり、サーザはテーブルに手をついて立ち上がってしまうが、行儀悪い、とミルザに注意されて慌てて腰を下ろした。

「何日泊まってくるの?」
「一泊だけよ」
「えー? ミルザ、いつもパレに行ったら、二、三日は帰ってこないじゃない。ひどいときは一週間も帰ってこないくせに、どうして今回に限って一泊なのよ」
「文句言うなら……」
「いえっ! 言いません! ねえねえ、せっかくの花祭りなんですもの。思いきりおしゃれして行こうよ!」
「私は別にこのままでも」
「なに言ってんの! もしかしたら、運命の出会いが待っているかもしれないじゃない!」
「あら、エルムはいいの?」
「私じゃないわよ。ミルザのこと」
「それは……まあ、ご縁があれば、ということで」
「あるといいわね。なにを着ていくか、今夜のうちに決めちゃおうっと!」
 言いながら、サーザはすごい勢いでシチューを平らげた。その様子に声をあげて笑ったミルザは、自分も器へと視線を戻す。

 修道院に入る話はサーザの頭から消えてしまったようで、ミルザは安堵の息を小さく吐いた。
 婚約破棄をされたことやミルザの傷のことなど、ミルザ以上にサーザは気にしているらしい。余計な心配をさせるつもりはなかった。
 ちらりとサーザを見れば、やはりそんなことは忘れたように、スカートはあれでブラウスはこれで、と嬉しそうにはしゃいでいる。この後サーザのおしゃれの用意に付き合わされることを予想して、ミルザは苦笑した。

 サーザほどではないにしても、気分が浮き立つのはミルザも同じだ。長い冬が終わり、春がやってくる。草木の芽吹く季節は、いつだってわくわくするものだ。
 早く休まなければ、というミルザの思いとは裏腹に、その夜はいつまでも部屋の明かりは消えなかった。
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