冷酷王の深愛~かりそめ王妃は甘く囚われて~
レギストリア王国の首都パレは、新春の花祭りにわいていた。
雪が解け新しい命が芽吹くこの季節に、国のあちこちで、この世界を安寧へと導き豊穣をもたらすとされている癒やしの聖女『セイクレッド・フォリストリア』に感謝を捧げる祭りが開催される。中でもパレで行われる春祭りは、別名〝パレの花祭り〟とも呼ばれ、国中で一番華やかに行われるのだ。この祭りを見るために国内外から人が集まり、新春のパレの都はいつにもまして賑やかだった。
そのパレの都を、ミルザとサーザは大きな花の束を担いで歩いていた。サーザは、きょろきょろともの珍しそうにあたりを見回している。
「サーザ、ちゃんと前を向いていないとぶつかるわよ」
「だって、一年ぶりのお祭りですもの。見て見て、あの花かご! あんなにたくさんのお花をそろえて、すっごくきれい!」
都は、色とりどりの花で埋め尽くされていた。
都の中心にある広場には、この祭りのために癒やしの聖女をまつる祭壇がつくられている。そこに祈りを捧げる人々が思い思いの花を手向けて、今年一年の作物の豊穣と心身の健康を祈るのだ。そのためにこの時期は、都の中のどの店でも、多くの種類の花を売っている。〝花祭り〟といわれる所以である。
普段は毛織物や縫い物で生計を立てているミルザも、この時期には花祭りのための花をつくって毎年納品していた。
「サーザ、行くわよ」
「待って、ねえ、ちょっとだけあれ……」
賑わう街の装いに目を奪われ、サーザの足はなかなか進まない。めったに街に出てくることのないサーザの気持ちもわかるミルザは、先にひとりで行くことにした。目的の店はもうすぐそこだ。サーザも幼い頃から世話になっていて迷わずたどり着けるだろうし、パレは治安も悪くないのでひとりにしても心配はない。
ある一軒の雑貨屋の前で、ミルザは足を止めた。店の名前は『ウェール』。親の代からのなじみの店だ。
「おはようございます」
「おや。おはよう、ミルザ!」
奥から出てきた恰幅のいい年配の女性は、挨拶を返すとミルザの顔をまじまじと覗き込んだ。ミルザは、肩から荷物を下ろして彼女に挨拶を返す。
雪が解け新しい命が芽吹くこの季節に、国のあちこちで、この世界を安寧へと導き豊穣をもたらすとされている癒やしの聖女『セイクレッド・フォリストリア』に感謝を捧げる祭りが開催される。中でもパレで行われる春祭りは、別名〝パレの花祭り〟とも呼ばれ、国中で一番華やかに行われるのだ。この祭りを見るために国内外から人が集まり、新春のパレの都はいつにもまして賑やかだった。
そのパレの都を、ミルザとサーザは大きな花の束を担いで歩いていた。サーザは、きょろきょろともの珍しそうにあたりを見回している。
「サーザ、ちゃんと前を向いていないとぶつかるわよ」
「だって、一年ぶりのお祭りですもの。見て見て、あの花かご! あんなにたくさんのお花をそろえて、すっごくきれい!」
都は、色とりどりの花で埋め尽くされていた。
都の中心にある広場には、この祭りのために癒やしの聖女をまつる祭壇がつくられている。そこに祈りを捧げる人々が思い思いの花を手向けて、今年一年の作物の豊穣と心身の健康を祈るのだ。そのためにこの時期は、都の中のどの店でも、多くの種類の花を売っている。〝花祭り〟といわれる所以である。
普段は毛織物や縫い物で生計を立てているミルザも、この時期には花祭りのための花をつくって毎年納品していた。
「サーザ、行くわよ」
「待って、ねえ、ちょっとだけあれ……」
賑わう街の装いに目を奪われ、サーザの足はなかなか進まない。めったに街に出てくることのないサーザの気持ちもわかるミルザは、先にひとりで行くことにした。目的の店はもうすぐそこだ。サーザも幼い頃から世話になっていて迷わずたどり着けるだろうし、パレは治安も悪くないのでひとりにしても心配はない。
ある一軒の雑貨屋の前で、ミルザは足を止めた。店の名前は『ウェール』。親の代からのなじみの店だ。
「おはようございます」
「おや。おはよう、ミルザ!」
奥から出てきた恰幅のいい年配の女性は、挨拶を返すとミルザの顔をまじまじと覗き込んだ。ミルザは、肩から荷物を下ろして彼女に挨拶を返す。