冷酷王の深愛~かりそめ王妃は甘く囚われて~
「またお世話になるわね、セルマ。……私の顔、なにかついてる?」
「今日はやけにめかし込んでいるじゃないか。どこのお嬢様かと思ったよ」

 結局ミルザも、盛り上がるサーザのおしゃれに付き合わされたのだ。いつも化粧っけのないミルザのほんのりと赤く染められた唇や結い上げられた髪に、セルマは嬉しそうな笑顔になる。ミルザは、居心地悪そうにもじもじとしながら視線を逸らした。

「サーザに無理やり化粧させられたのよ。おかしくないかしら?」
「おかしくなんかないよ! どうだい、今年こそ『セイクレッド・フォリストリア』に申し込んじゃ? あんたほどの器量なら、絶対聖女様になれるよ」

 セルマが言っているのは、一週間ほど続く祭りの中でも最大の見せ場、パレードにおいて花形となる少女のことだ。毎年国中の未婚の娘の中から、その年の聖女役がひとり選ばれる。
 聖女に選ばれた少女はきれいに着飾らせてもらい、明日行われるパレードで花神輿に乗せられパレの都を練り歩く。その最後に広場に着いた少女は、『セイクレッド・フォリストリア』として国の安寧と豊穣を宣言する。レギストリアどころか、ブリア=バート地方五カ国すべての少女が夢見る一番の大役だ。

「今年の『セイクレッド・フォリストリア』なんてとっくに決まってるわよ。冗談はやめて」
「冗談なもんか。レギの少女なら誰だって一度は憧れるもんなのに、あんたときたらちっとも関心がないんだからねえ」

『セイクレッド・フォリストリア』を選ぶ際には、家柄や出自などはまったく問われない。そして一度『セイクリッド・フォリストリア』に選ばれた少女は、現在の身分に関係なくどこへ行っても聖女として優遇される。
 また、美しい姿で街中を練り歩くことで多くの人の目に触れることになり、そこで貴族に見染められることもある。そうして実際に裕福な家に嫁ぐことになった少女も多いことから、みんなその聖女役に憧れるのだ。

「もったいないねえ。選ばれれば後の幸せは約束されたようなものなのに。なにも王妃を狙えとは言わないけどさ、ここで顔を売っておけばそれなりにいいところへお嫁に」
 言いかけて、セルマは言葉を切った。触れてはならない話題になってしまったことに気づいたのだ。そのことに気づかないふりをして、ミルザは話を逸らした。
「それより、今日は少し多めに持ってきてしまったけれど、買い取ってくれるかしら?」
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