冷酷王の深愛~かりそめ王妃は甘く囚われて~
「もちろんだよ! あんたのつくる花は、評判がいいんだ。とびきりきれいに咲いているし長持ちするからね。丁寧につくっているのが、よくわかるよ。多く売ってくれる分には、こっちが大助かりさ」
「そう言ってもらえると嬉しいわ。あと、ミモザでサシェを作ってみたの。それと、香油が五本。お願いできる?」
「あいよ。サーザちゃんは? 今日は、彼女も一緒に泊まっていくんだろ?」
「ええ。あちこち見ていて遅いの。そろそろ来るんじゃないかしら」
「ああ、サーザちゃんがパレに出てくるのは久しぶりだしね。……そういやさ」
 声をひそめて、セルマはミルザに顔を近づけた。

「例の事件、まだ犯人捕まってないんだろう?」
「ええ」
 セルマの言っているのがなんのことかわかったミルザは、眉をひそめてうなずく。

「若い娘さんばかりが殺されるなんて、嫌な事件だね。やっぱり田舎のほうは治安がよくないのかねえ。あんたらも気をつけたほうがいいよ」
 本気で心配しているのがわかる目をして、セルマはミルザを見つめた。
「そうね。まだラートで被害者が出た話は聞かないけれど……サーザもいることだし、なにかあったらこちらに頼らせてもらってもいいかしら」
「ああ、いいとも。なんだったら、このままずっと、うちにいてくれてもいいんだよ」

 セルマとは、両親が生きている頃からの付き合いだ。ミルザの両親も、細々と作物や織物を作ってはセルマの店に卸してきた。ミルザがパレに出てくるときには、いつもここに泊めてもらっている。ミルザとサーザのことを小さい頃から知っているセルマは、彼女たちを自分の娘のように思ってくれていた。
 親のいないミルザにとっては、頼れる大人のひとりだ。

「あれ? ミルザちゃんが来てるのかい?」
 ひょっこりと店に顔を出した中年の男が、ミルザに気がついて声をかけた。ミルザも見たことのある、常連の男性だ。
「こんにちは」
 客の来訪に、ミルザは慌てて店の奥に隠れようとする。その様子を見て、男はからからと笑った。
「おや、相変わらず内気なんだね。そういう奥ゆかしいところ、うちのかみさんにも見習わせたいよ。セルマ、いつもの油、あるかい?」
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