冷酷王の深愛~かりそめ王妃は甘く囚われて~
「あ、ミルザ!」
店に戻ろうとしたミルザに、青い顔をしてセルマが駆け寄ってきた。
「大変よ! サーザちゃんが!」
「え!?」
セルマに連れられて急いでミルザが表に飛び出してみると、店の前に一台の馬車が止まっており、御者が興奮した馬をなだめている。その豪華なつくりからして、馬車の中にいるのはかなりの身分の者だとひと目でわかった。路上には、持っていた花をあたりに散らして座り込むサーザの姿があった。
「サーザ!」
慌ててミルザはサーザに走り寄る。だが、サーザは真っ青になってカタカタと震え、まったく動けない。
「いったい、なにが……」
「お前は、その者の関係者か」
馬車についていたらしい従者が、馬にまたがったまま不機嫌な声をかけてきた。
「はい。この子がなにか……」
「その女は、こともあろうにドルズ様の馬車の前に飛び出したのだ。危うく、馬が暴走するところであった」
「ドルズ様……」
そう言われても、ミルザには誰のことだかとっさに思い浮かばない。その様子が、その従者の怒りをさらに煽った。
「無礼者! ナトリア国外務大臣クーバ・ドルズ様に対して失礼であろう!」
ナトリア国。それを聞いて、ミルザの顔から血の気が引いた。
ナトリア国は、近隣の国の中でもレギストリアと一、二を争う強国で、長年対立し続けた国だ。だが、今の国王がついにナトリアとの講和を結ぶことに成功した。正式な条約締結はまだ数ヶ月ほど先のことだが、講和が決定した時点で、それはブリア=バート地方にとって有史以来の重大な出来事と大騒ぎになった。今年のパレの花祭りにも、その講和を祝っていくつもの記念行事が予定されている。
その大事なときに、ナトリア国の外務大臣相手にいざこざを起こすということがどういうことなのか、一瞬にしてミルザは悟った。
「申し訳ありません」
ミルザはその場に伏して謝罪する。
「外務大臣様のお車とは知らず、ご無礼をいたしました。どうか……どうか、お許しくださいませ」
「ならん」
言うなり、その従者は馬上で剣を抜いた。周囲から短い悲鳴があがる。
「これから長きにわたり講和を結んでいこうという矢先に、これがレギストリアの歓迎の仕方か。二国の邪魔をする女、この場で切り捨ててくれるわ!」
とっさに、ミルザはサーザを背にかばう。
店に戻ろうとしたミルザに、青い顔をしてセルマが駆け寄ってきた。
「大変よ! サーザちゃんが!」
「え!?」
セルマに連れられて急いでミルザが表に飛び出してみると、店の前に一台の馬車が止まっており、御者が興奮した馬をなだめている。その豪華なつくりからして、馬車の中にいるのはかなりの身分の者だとひと目でわかった。路上には、持っていた花をあたりに散らして座り込むサーザの姿があった。
「サーザ!」
慌ててミルザはサーザに走り寄る。だが、サーザは真っ青になってカタカタと震え、まったく動けない。
「いったい、なにが……」
「お前は、その者の関係者か」
馬車についていたらしい従者が、馬にまたがったまま不機嫌な声をかけてきた。
「はい。この子がなにか……」
「その女は、こともあろうにドルズ様の馬車の前に飛び出したのだ。危うく、馬が暴走するところであった」
「ドルズ様……」
そう言われても、ミルザには誰のことだかとっさに思い浮かばない。その様子が、その従者の怒りをさらに煽った。
「無礼者! ナトリア国外務大臣クーバ・ドルズ様に対して失礼であろう!」
ナトリア国。それを聞いて、ミルザの顔から血の気が引いた。
ナトリア国は、近隣の国の中でもレギストリアと一、二を争う強国で、長年対立し続けた国だ。だが、今の国王がついにナトリアとの講和を結ぶことに成功した。正式な条約締結はまだ数ヶ月ほど先のことだが、講和が決定した時点で、それはブリア=バート地方にとって有史以来の重大な出来事と大騒ぎになった。今年のパレの花祭りにも、その講和を祝っていくつもの記念行事が予定されている。
その大事なときに、ナトリア国の外務大臣相手にいざこざを起こすということがどういうことなのか、一瞬にしてミルザは悟った。
「申し訳ありません」
ミルザはその場に伏して謝罪する。
「外務大臣様のお車とは知らず、ご無礼をいたしました。どうか……どうか、お許しくださいませ」
「ならん」
言うなり、その従者は馬上で剣を抜いた。周囲から短い悲鳴があがる。
「これから長きにわたり講和を結んでいこうという矢先に、これがレギストリアの歓迎の仕方か。二国の邪魔をする女、この場で切り捨ててくれるわ!」
とっさに、ミルザはサーザを背にかばう。